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2008年12月01日

第五回 鉄舟全国フォーラムの感想 その二

続いては、山岡鉄舟研究家・山本紀久雄氏による鉄舟研究発表です。

山本氏の今回の発表は、「鉄舟のブレない生き方に学ぶ」でした。

鉄舟のブレない生き方とは如何なるものか。それを語るのに、同時期に活躍した人物との比較を以て語るという手法を、山本氏は試みられました。

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幕末、幕府のご威光は下降の一途を辿っていました。
一方、孝明天皇を中心とする朝廷の名を借りて、薩摩や長州が政治に対する発言権を強めていたのです。
このころ、政治の指示系統は2つになっていたことを理解する必要がある、と山本氏は指摘されました。
すなわち、朝廷と幕府です。
孝明天皇のご存命中、日本は「京都朝幕政権」という体制になっていました。すなわち、一橋慶喜、松平容保(会津)、松平定敬(桑名)の一会桑が攘夷に向けた政権を担い、一方、幕府側では十四代家茂が開国政策を行っていたのです。孝明天皇のご威光のもと、幕府と朝廷は微妙なバランスながらお互いが成立し得ていたのです。
しかし、そのバランスは孝明天皇の崩御とともに崩れ去ったのです。

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孝明天皇崩御から明治維新に至る変革の中で、時の英雄たちはどのように振る舞ったのでしょうか。
山本氏は今回、勝海舟、榎本武揚、そして山岡鉄舟といった幕臣たちの人間像を浮き彫りにすることで、鉄舟の「ブレない」生き方に迫りました。

勝海舟と榎本武揚。
両者の考え方は異なる方向性を持っていましたが、共通するものがあります。
それは、世界を見聞し、世界から日本を見つめたことです。
勝は、外国語を学び、大海軍構想を打ち立て老中に進言しました。
榎本は、デンマークで得た「外でうしなったものは、内で取り戻す」という発想をもとに、函館に新国家の建設を企みました。
その根底には、幕藩制度の限界がありました。
「幕府はもうダメだ。幕府を壊して、新しい国家を築かねば諸外国に対抗できない」
勝は、幕臣の身でありながら西郷にそう話したといいます。
その意味で勝は、政治家であり、政策を重視した人物でした。

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勝と榎本、そして鉄舟。
三人とも幕臣であり、かつ維新後新政府に出仕した共通点があります。
しかし、鉄舟は他の二名と決定的に異なる点があります。
それは、明治天皇に直接仕えたこと。
そして、没後、悪評がまったくといっていいほどのぼっていないことです。

鉄舟は記録を遺さなかったといわれていますが、いくつかの自戒を書き遺しています。
嘉永3年(1850)15歳、『修身二十則』
安政5年(1858)23歳、『宇宙と人間』、『心胆錬磨之事』、『修心要領』

『我れ幼年の時より、心胆錬磨の術を講ずる事、今日に及ぶと雖も、未だ其蘊奥(極意の意)を極むる事能はざる所以のものは、一ツに我が誠の足らざるが故なり。右は只だ其感ずる所を楽書し、習練の余暇、時々之を披(ひら)きて以て自ら励まし、爾後益々勤勉して、其源に到達せん事を期す』
(心胆錬磨之事より)
『故に余の剣法を学ぶは、偏に心胆錬磨の術を積み、心を明めて以て己れ亦天地と同根一体の理、果たして釈然たるの境に到達せんとするのみ』
(修心要領より)

鉄舟は、己の過去経験を整理し、活かすことを修行としたのです。
自分の中にあるものから、自分に相応しいものを引き出す努力をもって、修行としたのでした。
その結果、自在に自分をコントロールする胆力を持ち得る人物となり、そのことが西郷と面しても憶さず、無血開城の談判に遺憾なく発揮されたのです。

鉄舟は「人間の出来が違う」人物だったのではない。
自らを厳しく鍛錬し、その結果「人現の出来が違う」人物と周りを唸らしめた人物になったのだ。
これが、鉄舟のブレない生き方なのだ。
山本氏の研究は、このことを私たちに教えてくださいました。

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ご両名のご講演は、大変実りあるものでした。
明治天皇の思想的背景となったのは、鉄舟の真摯なる教育姿勢であったこと、そして、鉄舟がそれを成し得たのは「心胆錬磨」という自己実現のためのブレない鍛錬であったことを学びました。
佐藤一伯権禰宜と山本紀久雄氏に感謝を延べ、感想としたいと思います。

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フォーラム終了後、懇親会を行いました。
フォーラムご参加の方の多くが代々木駅近くの居酒屋に移動し、盛大に盛り上がりました。

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今回の全国フォーラムは、明治神宮・神楽殿の参拝〜フォーラム講演会〜懇親会と、丸一日がかりの行事になりました。
ご参加くださいました皆さま、誠にありがとうございました。

(田中達也・記)

投稿者 lefthand : 2008年12月01日 07:49

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