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2006年11月23日

11月例会記録(1)

■ 金子 マサ氏

ニューヨークのぬりえ展報告
―ニューヨークは「ぬりえ」である―

開催期間:
9月25日(月)~29日(土)日系人会
9月28日(木)~10月11日(水)紀伊國屋書店
10月3日(火)~10月21日(土)大西ギャラリー

1.海外にもぬりえがあるの?

 ぬりえは日本独特のものと思っていて驚かれる。海外でもぬりえは自国独自のものだと思っているが、ぬりえは世界中にある。
友人・知人が海外に行かれたときに、ぬりえを買ってくださるので、美術館には現在世界22カ国のぬりえが所蔵されている。自国でぬりえを出版している国や、カンボジアなど内戦から10年しか経っていないような国は輸入品のぬりえで子供たちは遊んでいる。

2.何故海外で展覧会を開催するのか?

 ぬりえは昔からあるものですが、子供のする遊びとして研究されていなかった。
きいちが伯父ということもあり、ぬりえが頭にあって、ぬりえ美術館を作った。
ぬりえは、ファインアート、挿絵、絵本、の下という位置付けになっている。ぬりえを文化にしたいと、美術館開館3周年は『ぬりえ文化』を出版した。調べていると、ぬりえの中で、すごく美しく、文化的で、芸術的なのは、(伯父だから、というのではなく)きいち以外にはないということがわかった。「世界で一番美しく、文化的なぬりえはきいちです」と紹介してきた。
 海外の出版社を取材しても、ぬりえは日本と同じ扱いで、絵本部門、ぬりえ部門もある場合、絵本の方が価値の高い扱い。ぬりえの文化的な背景は海外でもない。
ぬりえを文化にするために活動しているので、本を出して、次にぬりえを海外に紹介して交流していきたい、と思いNYで展覧会を行った。

3.何故ニューヨークなのか?

 今のアメリカは、政治と経済、実は芸術分野においても世界の中心。千住博によると、NYは、”center for the arts”といい、世界中の美術館のディレクターや関係者が頻繁に絵を見るために全世界から集まってくるところ。日本は残念ながら、世界で流行っているものの影響を受けている状態だが、NYは発信する場所」と言っている。そのようなNYに来る世界の目の肥えた方たちに見ていただきたかった。
 出張で訪問した1980年のNYでは、ギャラリーの中心はSOHOだった。今はファッショナブルな町になり、レストラン、ブテック、シャネルもできた。観光地になってしまった。
以前は倉庫だったSOHOは価格が上がり、若い芸術家は住めなくなってくる。ギャラリーも若い人を応援するために高いところではやっていけない。そのため今はギャラリーの中心は、チェルシーという街に移った。ギャラリーは路面店ではなく、ビルの一部屋一部屋に入っていて、ギャラリーめぐりをする人が沢山いる。
 元々チェルシーは19世紀には高級住宅街だったので、レンガ造りの素敵な建物がある。芸術家が移り住むとNYでは新しい街が出来ると言われて、アートが街作りをするのがNYである。今、チェルシーは文化人、芸術家が住む町になっている。

 そのチェルシー26丁目にある大西ギャラリーという場所で展覧会を開催した。イタリア人と結婚している日本人女性が経営しているギャラリーで、イタリアと日本のアートを積極的に紹介している。去年の12月にOPENした新鋭のギャラリーで、壁も白、床も白いタイルのモダンなギャラリーである。
 ぬりえの展示は、美術館では1枚ずつ額に入れているが、NYでは、赤いフレームの中にぬりえを8枚入れて15台展示した。
1枚1枚のぬりえは小さいので、大きな旗(幅40センチ×2メートル)を3本作り、人目につくようにした。ぬりえの女の子を等身大サイズにしたパネルも展示し、アピールした。

3.きいちのぬりえの反響・評価
 
 バナーやお人形に加工した女の子は、袋ぬりえの表紙を使った。現代の日本の東京にもないし、ましてNYにもあのような色合いがない。その色合いを使って旗をつくったので、入ってきた方は目を奪われて、それから1枚1枚白黒の絵をみてくださった。これは最初から意図して仕掛けた。
アウトスタンディングと言い、カラフルさに目を奪われていた。

 ぬりえに目をやると、ぬりえ1枚1枚が、しっかり構築されている、手が込んでいる。手描きであることはアメリカの小学生もわかっていた。きいちでなければ描けない少女の可愛さ、ぬりえの繊細さ、デザイン性、また、オリジナリティーが評価された。
「一人の人が描いているの?」という驚きの声もあった。

 オープニングパーティは、約180名ご参加いただき、にぎやかにスタートできた。
企業人のときには、NYの支社があり、頼るところがあった。今回は本当に一人であったので、ツアーで鉄舟の方や、後輩の知り合い、同級生のお嬢さんなどがNYにいらしてくださったのは大変心強く、嬉しかった。

 オープニングパーティのときに共同通信の記者が日本人用、英文用と二人で来てくれ、NYでのきいちのぬりえ展の記事が日本の地方紙やジャパンタイムズに紹介された。
その『ジャパンタイムス』の中から紹介する。
「きいちのぬりえの可愛さを認め、きいちの芸術性とディティールに感銘を受けていた」と全体的な印象を書いている。子供のイラストを書いているプロの方のインタビューでは、「全ての顔が同じポジションなのは珍しい、きいちが描いたように単純な子供の愛らしさやデリケートな部分をとらえるのはすごく難しい」ときいちの才能を認めてくれた。「アメリカのぬりえと比較してずっと繊細でこちらの方をぬりたいわ」というアメリカの子供たちの意見も掲載された。

 また”インタレスティング!“(面白い)という感想もあり、この感想を3つに分類した。
①一つは、子供向けの展示物として非常に面白い、という感想で、教育者、子供関係の方に言われた。
②グラフィック、芸術の方は、デザイン性で面白いと評価。
③一般的な面白いという意味で”インタレスティング!“と言っていた。

 ギャラリーにずっと居て、日本と違うと思ったのは、ぬりえ美術館ではお客様はほとんど女性だが、NYのギャラリーめぐりをしている方は、子育て世代は時間が厳しいので、少ないだが、若い人と50代以上の方、中でも男性が非常に多い。ギャラリーカタログ見ながら、通りすがりに入ってきてくれて、男性も評価してくれた。それは今後の展覧会の自信となった。

 親友がジャカルタに居るが、共同通信の記事がジャカルタにまで届いていた。
たまたまジャカルタに友人がいたから届いたのであって、もしかしたら、他の地区にこの記事がいって、他の国でも読まれているかもしれない。
他にもフリーペーパー『週刊NY生活』には大きく取り上げられた。展覧会のDMを持って、こういうことのためにNYに来たとDMを見せると、邦人の方は“見てました、知ってます”とほとんど知っていた。


4. 日本的なものが人気

 NYに35日間の長い間、NYを縦横してみている。すごい日本ブーム。アニメ・マンガは日本の紀伊國屋だけじゃなくて、大きなチェーン店の本屋にも売られている。「マンガ」、「アニメ」という日本語が一般化。和食は高級てんぷら、すき焼き、寿司から、牛丼、ラーメン、焼き鳥屋、居酒屋の大衆的なものになり、日本酒もブームになっている。

 今回は居酒屋や日本酒を売っているお店に行った。1980年代にNYに行っていたときは、和食店は駐在員相手のお店だったが、今はその土地の人を相手にしている。
外人も日本人もいっぱい飲み食いしている。名前も面白くて、「ケンカ」、「ビレッジ横丁」とか面白い名前がついていた。
居酒屋の流行の理由を考えてみると、アメリカでは、お酒はパブで立ち飲みして、食事は、レストランでする。日本の居酒屋はお酒も飲めて、食事もできる。そういう業態がアメリカにはなかったからではないか。また価格もすごく安い。ナイアガラの滝の観光の帰りに居酒屋に立ち寄ったが1人2000~3000円で食べられる。

 なぜ和食や日本が流行っているかというと、日本人のおもてなしの気持ち、良い商品を作ろうという考え、それが流行らせているのではないか。
初めて日本料理の居酒屋にいったアメリカ人の知人は、グレートサービス!あんなサービスを受けたことがない!と狂喜乱舞していたという。私から見たら、ちょっとだけ良いくらいのサービスであった。しかしアメリカでこの程度のサービスを受けるには1万円くらい必要。サービスの現場で私たちと触れ合うのはマイナリティー人が多いので、サービスが良いとは言えない。気持ちの良いサービスが居酒屋レベルで受けられることに驚いている。

 ユニクロがNYにも出展した。GAPとユニクロを比較するとユニクロの方が、縫製、デザイン性、品質が良く値段も安いとアメリカでは評価されている。よりよいものを作って、値段も安くしている。
日本文化の背景を考えると、ぬりえは子供の遊びであり、塗って捨てられてしまうようなものだが、そのようなものにも手を抜かずに描いている。その日本人の気持ちが伝わってギャラリーに来た方に感銘を受けさせているのではないか。

 このような状況を考えるとき、これからも日本的なものが流行り、まだまだ広がると思う。
外国は規制を与えるかもしれないが、日本人ならそれをクリアしていくのではないか。

5. ニューヨークはぬりえである

 NYは縦に、アベニュー(街)、横にストリート(通り)で構成され、アッパータウン、ミッドタウン、ダウンタウンと分かれている。東西南北でそれぞれエリアの顔が違う。
アメリカは人口が10月17日で、3億人となり、中国・インドの次に多い。それは移民が多いからで、11秒に1人、人口が増えている。そのアメリカの中で大都市NYは、移民を含めて様々な人が集まっている。短期、長期に仕事をする人、学ぶ人、観光など。それぞれの人は、それぞれの思いを持ってやって来ている。
 そのNYを考えると、NYの街は「ぬりえの下絵」だと思った。それぞれの思いによって、NYの色が変わる。それぞれの人によって、夢や志によって、さまざまな色に塗られるNYは「ぬりえ」ではないか。
「NY=ぬりえ」そのような場所で海外初のぬりえ展を開催出来たのは成功だった。
来年はドイツ、2008年10月はパリでの展覧会を予定しているので、1歩ずつ積み重ねていきたい。

6.ぬりえの未来

 ぬりえコンテスト・・・子ども、大人
 国際ぬりえシンポジウム

 今年の8月にJOMOが全国ぬりえコンテストをした。対象者は子供だが、非常に活発だった。
12月に『ぬりえの心理』という本が出る。『ぬりえ文化』は専門書だが、今度はもっと読みやすいエッセイ風になっているので、楽しみにしてほしい。外国の図書館にも置いていただきたいので、英文にする予定。
 来年の7月には「国際ぬりえシンポジウム」が開催される。脳を研究する方たちが集まって、講演会、ぬりえ大会も計画している。シンポジウムに向けて、07年6月には「検証大人のぬりえ」を出す計画でいる。
さらに08年には「ぬりえを旅する」として、海外のぬりえ事情を発表していきたい。特に大人のぬりえについては日本が先端。
 今日本で人気の「大人のぬりえ」ブーは、世界中に広がるのではないかと予測している。ぬりえを文化にという旅は各方面に広がっている。

今後ともご支援宜しくお願い致します。
          

【感想】(例会参加者・田中達也)

金子さんの発表はニューヨークでのぬりえ展の成功への喜びと自信に満ちあふれたものでした。
1カ月以上に及ぶニューヨークでの生活で得た情報、その中で日本のぬりえはニューヨークの方々に高い評価を受けたこと、また日本の文化が様々な形でニューヨークの人々の生活の中に浸透していることなど、大変興味深いお話でした。
世界中で日本が評価されているということの実態を紹介していただき、ホントに日本は世界で流行っているんだなぁという実感を持つことができました。
日本のぬりえはさらに広がり、来年はヨーロッパに紹介されるとのこと。これからがますます楽しみですね。ご活躍、期待しています。

投稿者 staff : 2006年11月23日 13:59

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